脳卒中データバンク
ホーム  はじめに  運営細則・組織  事業内容  脳卒中入院台帳  リンク集
戻る
2008-2010年度総括研究報告 小林祥泰
【研究の概要】

(1)平成20年度に脳卒中データベースのバージョンアップを行い、t-PA治療の詳細を調査するために脳梗塞急性期にt-PAを試用できなかった理由項目を追加した。 また、ASPECTスコア、early CT sign記載項目、アルテプラーゼ静注療法チエックリストも追加した。平成22年度には脳梗塞画面に心房細動のCHADS2スコア 半自動入力項目、TIAのABCD2スコア半自動入力項目を追加、分類が問題となっているBranch Atheromatous Disease(BAD)も別入力出来るよう改訂した。 さらに、病院前脳卒中救護スケール(Izumo Prehospital Apoplexy Scale[IPAS])画面も追加し、消防署との双方向データ通信を容易に出来るよう機能追加した。
 脳卒中データバンク登録総数は2007年までの約50000例から今回の研究期間に約78000例と大幅に増加した。 施設数も2008以降脳卒中基幹病院を主体に35施設増加し193施設となった。
 2年前からt-PA不使用理由項目を追加し調査を行ってきた結果、急性期例でt-PA投与出来なかった2990例が登録された。 その不使用理由の52%が3時間以内に投与出来なかった例、禁忌症例が28%であった。 一方、t-PA投与1200例の解析では発症2時間以内来院が60%を占めていた。
以上よりt-PA投与例を増加させるには搬送時間短縮が最も重要であることが示唆された。

(2)急性期脳梗塞患者に対する急性期血栓溶解療法におけるMRI検査の有用性
 脳梗塞急性期 rt-PA 静注療法の適応選択における頭部 CT と MRI の有用性の 違いについてこの3年間検討を継続してきたが、 CT firstとMRI firstでは来院から投与までの時間的に有意差はなかったが後者がより適応を正確に選択出来るため予後良好であった。 さらにこの成果を簡便な指標により普及させるため、臨床症状とDWIで評価する簡便なClinical Diffusion Mismatchを考案し、 t-PA投与例と非投与例に分けて検討を行った結果、Clinical Diffusion Mismatch はt-PA投与適応と予後判定に有用であった。

(3)Pre-hospital Stroke Scale(PSS)の有用性評価
 島根大学医学部附属病院と出雲消防署で3年間取り組んできた、シンシナティ病院前脳卒中スケール(CPSS),Kurashiki Prehospital Stroke Scale(KPSS)に 心房細動等の重要な危険因子、救急隊の自己診断などを組み込んだ病院前脳卒中救護スケール(Izumo Prehospital Apoplexy Scale[IPAS])を活用して共同研究を行った。 救急隊員がIPASを評価し自己診断を記載し提出、後日確定診断や予後をフィードバックする仕組みである。 その結果、発症2時間以内の脳梗塞搬送率がIPAS導入前の42%(78例中)からIPAS導入後62%(61例中)と有意に増加し、搬送時間の平均も7.5時間から3.5時間と 有意に短縮した。脳梗塞の正診率も40%台とされるが、IPAS導入後には63%と高い正診率であった。 川崎医大脳卒中センターと倉敷消防署で2年前から行った救急隊によるKPSにIPASの一部を加えたPSSの有用性評価では確定診断のフィードバックにより救急隊員の 脳卒中病型別診断精度が41.2%から58.8%と20%近く有意に向上したこと、その後も維持されていることが示された。 倉敷地区では以前から救急隊員のPSLSなどの教育に積極的に取り組んでおり、それに加えて確定診断のフィードバックが診断精度向上に有用であることが確認された ことは極めて意義が大きい。
 国立循環器病センターでは初年度は各種PSSの有用性、実用性、簡便性などについて比較検討を行った。 2年前から大阪府MCでも試用しているIPASを用いて、救急隊によりPSSが記載された663例を対象に検討した。 その結果、救急隊陽性反応的中率は67%であり、CPSSの有用性も確認された。 また、PSLS受講救急隊員は非受講者に比して脳卒中診断率が有意に高いことが示された。
 PSS実施で最も先行している出雲消防署では圏域の脳卒中搬送の大半をカバーしている島根大学病院と県立中央病院で実施し、 病院からも1−2ヶ月後にまとめてフィードバックを行っている。全国のMCからも注目され、本研究で、島根大学医学部附属病院で作成した Izumo Prehospital Apoplexy Scale (IAPS)がモデルPSSとして取り上げられている。島根県Medical Control (MC)もPSS採用に積極的で、 平成22年度に脳卒中プロトコルに正式に採用され、IPASも追加された(資料1-2)。 今年度さらに島根県内の6消防本部がPSS使用に参加することになった。
 秋田県のMCでも脳卒中病院前救護プロトコルが平成22年度に正式採用され、秋田市周辺の消防本部にIPASデータベースソフトが配布され、 その検証が進行中である(資料3)。さらにこれを効率化して継続性を高めるには手作業の入力負担を半減する暗号化ファイルによる双方向電子メール通信を ルーチン化することが重要であるが、これに関しては平成21年度に開発した暗号化メールによる双方向通信の啓蒙と研修訓練中である。 メールによる暗号化情報の交換はFAXや他のメディアによる情報交換よりも迅速かつ、即取り込み可能なファイルであること、該当機関のデータベースにおいてのみ、 作成、読み込み可能であることからセキュリティ面でも紙媒体よりも安全であると考えている。 すでに出雲消防署と島根大学医学部附属病院(県立中央病院データも含む)の間ではこのソフトを用いて情報交換を実施しておりデータを蓄積中である。 今年度開発したIPASを脳卒中データベースに取り込んだり書き出したりするソフトを活用するとさらに詳細なPSSの有用性の検証が可能となる。
 さらにIPAS普及のために出雲消防署の協力を得て、啓蒙活動に活用出来る消防隊や医師、一般を対象とした分かりやすい教育ビデオ(9分)を平成21年度に作成し、 各消防署や医療関係者の研修会で活用している。

(4)急性心筋梗塞搬送データベースの構築研究
 国立循環器病センターにおいて、担当医の手間を極力省くため、DPCデータを用いて、病院電子情報から症例を抽出して集積するデータベースを開発し、 急性期心筋梗塞に特化した症例集積を行った。2008/4〜2009/12退院例でDPC050030のデータ310例を解析した。 ?所謂オーバーコーディングを検討するため、退院時DPC050030と臨床診断上の急性心筋梗塞(AMI)の一致は268例/310例(86.5%)であった。 AMI以外の臨床診断内訳は、心不全2例、不安定狭心症18例、胸痛を伴うが有意狭窄なし16例、たこつぼ型心筋症2例、その他4例であった。 ?退院時ICDコード”.9”コードを検討すると、DPC050030の中でAMI”I219”で、梗塞部位を表す小数点以下が、梗塞部位不確定の”.9”コードが 165例/268例(61.6%)を占めていた。?臨床診断AMIの症例で”AMI患者リスト”からDPCデータを検索すると、退院時臨床診断がAMIの180例中、 DPCデータ050030(AMI)は156例、DPCデータ050050(狭心症、陳旧性心筋梗塞)20例(3例はPCIに合併AMI)、 DPCデータ050130(心不全)1例(1例はPCI合併AMI)、DPCデータ010060(脳梗塞)1例(1例はAMIで入院し冠動脈治療なし)、 DPCデータ050210(心停止)1例(CPAで入院、原因がAMI)、DPCデータ050040(急性心筋梗塞後心室中隔穿孔)1例であった。 DPCにおいては、ACS(急性冠症候群)の診断分類がなく、AMIの診断基準が統一されていないことが影響することが示された。 ?退院時ICDコードの”9”コードは、病名表記の30〜40%程度に抑えることが必要であるが、現場ではICDコード小数点以下の記載が十分でないことが示唆された。 ?所謂アンダーコーディングは9.4%、I248(特発性冠動脈解離)、I469(心停止)、I509(心不全)、I639(脳梗塞)などの合併疾患によりDPCコードが AMIから変更された症例が含まれる。しかしAMIでありながら急性冠症候群と考えたため狭心症とコーディングされた症例がある可能性が示唆された。 結論:今後、DPCコードを疾病登録に活用するには、急性冠症候群・不安定狭心症・急性心筋梗塞の診断基準の定義を明確にする必要があることが判明した。 さらに5施設共同研究を行い、急性心筋梗塞で19A-2に登録した215例において同様の検討を行ったが、False negativeは2.3%に過ぎず実用レベルであった。 心筋梗塞については脳卒中データバンクのような形式はとらず、より簡便な電子カルテ情報からの疾患自動抽出システムを主体に構築することとした。

(5)脳卒中地域連携パスの電子化と検証への応用
 熊本地区において平成21年度から本研究で作成した脳卒中データバンクおよび脳卒中リハビリテーションデータベースとも連携可能な電子化データベースを用いて、 急性期リハビリから回復期リハそして在宅の地域リハまで含めた脳卒中地域連携パスの包括的なデータ登録を開始している。 当初は紙ベースであったがその後徐々に脳卒中連携パスの検証をK-stream研究で電子媒体に変換しながら実施。 平成22年度にはすでに2600例を超える症例がデータベースに登録され、事務局での解析が容易に可能となった。 この解析により地域連携パスの有用性の検証が進めば参加者のモチベーションが向上し、次第に全国的に普及していくものと思われる。
 北海道でも地域医療再生計画の中で北海道庁と連携して2年前から全道統一脳卒中連携パスシステムを開発中であるが、 多くの職種を巻き込む必要がありその調整を行っている段階である。

(6)電子カルテ上の記載と脳卒中データベースの連携システム開発
 平成21年度から島根大学病院では電子カルテ(住電)に入院時と退院時の必須項目をチエックリスト形式で組み込み、退院後に基本情報と共にこれらの情報を 1−2ヶ月分とかまとめてテキストファイルで書き出して抽出し、ファイルメーカープロの脳卒中データベースに半自動で一括取り込みしている。 2年間でさらに使いやすく改良を加え、大幅な入力の省力化に成功している。同様な仕組みを富士通の電子カルテでも開発し実用化しているが、 平成22年度はさらにNECの電子カルテにおいてもソフト開発を行い実用化した。基本的にはどのメーカーの電子カルテにおいても低コストで同様の手法による データ書き出し、取り込みは可能である。

(7)DPCデータと心・脳卒中データベースのリンクシステム開発
 平成22年度から松田先生等に研究協力者として参加して貰い、DPCデータを脳卒中データバンクに取り込めるかどうかを検討した。 まず秘密保持契約書を交わした後、島根大学病院の約120例のDPC情報と脳卒中データベースを連結する実験を行い、DPCの暗号化キーと カルテIDの照合を行い大半のデータ取り込みに成功した。さらにこれらのデータを松田らの開発したソフトを用いて解析し、治療薬投与日数などの 正確な把握やリハビリテーションの詳細情報取り込みなどにはDPC情報が圧倒的に優れていることを明らかにし、また自動取り込みが可能なので データ入力のかなりの省力化も見込めることが明らかになった。今後はDPC診療報酬データのリンクにより医療経済解析への応用が可能となる。

【研究により得られた成果の今後の活用・提供】

(1)超急性期脳梗塞治療実態調査
 このデータは脳卒中データバンクで継続的に蓄積されるので、PSSの普及などで搬送体制が改善されればその効果を検証することが出来る。 すなわちt-PA治療が行えなかった理由を解析することにより、治療推進の有効な臨床指標の一つとして、改善策を考えることが可能になり救急体制を 含めた医療政策に反映可能な情報を提供できる。

(2)急性期血栓溶解療法におけるMRI検査の有用性
 今後、MRI firstでよりt-PAの有効性の高い患者を選択して治療出来る可能性があり、臨床症状とDWIで評価する簡便なClinical Diffusion Mismatchに 関する情報を提供することでその効果をさらに促進できる。これは従来のように造影剤を用いる必要がなく、CTよりも精度の高い診断を可能としながら Door to Needle timeを短縮することが出来る点で画期的な研究である。

(3)Pre-hospital Stroke Scale(PSS)の普及に向けての提案
 IPAS等を中心とする救急隊へのフィードバックを伴うPSSが救急隊員の脳卒中診断力向上と搬送時間短縮に有用であることが科学的に明確に証明された ことで、とくにt-PA治療を推進し脳卒中の予後改善を図る上で最も重要な搬送時間の短縮と適確な診断による搬送先の判断を行うにはPSSを普及させることと、 病院からのフィードバックシステム構築が必要であることが明らかとなった。しかし、フィードバックのためにはかなりの手間が必要で医師の負担が増えるので 現在のようなボランティア体制では不可能である。このような有効性が明らかでなかったため今までの全国の救急隊におけるPSS使用率はわずか15%程度で あり極めて低い。そこで推進のインセンティブとして救急隊へのフィードバックを伴うPSSを活用しているt-PA治療実施病院に診療報酬加算をつけることを 厚労省に提案することとした。脳卒中学会からも医療向上社会保険委員会から理事会等を経て厚労省に要望して貰うこととした。 病院前脳卒中救護加算要望案は資料3に記載した。

(4)急性心筋梗塞搬送データベースの構築研究
 今後、電子カルテを採用している多施設共同登録でデータ収集する方法として、標準ファーマットを配布した上で、院内医療情報管理システムから 必要データを抽出する方法が活用できる。この方法は心筋梗塞に限らず色々な疾患に応用できるので将来性が期待出来る。

(5)脳卒中連携パスの電子化と検証への応用
 クリニカルパスの発祥地の熊本地区で日本のモデルとなる脳卒中連携パスの電子化が普及しつつあることは、今後の全国的な電子化に向けて大きな 第一歩を踏み出したことを意味する。電子化により急性期から在宅までの患者の流れが把握でき、解析出来るようになると医療保険と介護保険の総合的な 検証が可能となり脳卒中の診療報酬改定に大きく貢献すると思われる。

(6)電子カルテ上の記載と脳卒中データベースの連携システム開発
 脳卒中データベース入力は紙カルテの場合二重手間であったが、電子カルテの普及により、電子カルテ上で必須項目を網羅したチエックリスト等 テンプレートに記載することにより、低コストで一括してデータベースに取り込むことが可能となった。すでに島根大学医学部附属病院(住友電工)、 熊本赤十字病院(富士通)では実用化して大幅な省力化を達成しており、NECでも作成中である。 今後この方法を普及することでより多くの施設が脳卒中データバンクに参加して貰えることが期待出来る。

(7)DPCデータと心・脳卒中データベースのリンクシステム開発
 今回の研究で両方とも暗号化匿名化されたDPCデータと脳卒中データベースの症例を特殊な方法でマッチングできることを確認したので、 登録病院内で退院後の患者DPCデータを脳卒中データベースに取り込むソフトを開発した。次の研究班でこれを治療薬の内容、投与量、投与期間などの 詳細やリハビリテーションの内容、画像検査の回数や実施日などの解析に使えるようソフト開発を行いたい。さらにDPCの病名の検証や診療報酬との 関係の解析が可能となり、診療報酬改定に重要なエビデンスを提供可能となる。

|  ホーム  |  はじめに  | 運営細則・組織  | 事業内容  |  データベース入力画面参照  | リンク集