脳卒中データバンク
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 我が国の社会保険制度は現在危機に瀕しているとはいえ、比較的安いコストで最高水準の医療を誰もが受けることが出来る点では 世界の最高レベルにあります。 脳卒中関連の最新の診断機器の導入実績についても、CTは人口100万人当たり69.7台、 MRIでも18.8台と2位の米国の各々26.9台、16台を大きく上回って 圧倒的に世界一であります。 すなわち、誰でもこの最新診断技術の恩恵を受けることが出来るのです。 さらに、我が国は脳血管障害患者数173万人(米国の約2倍、 虚血性心疾患は米国の3分の1)という、 先進国の中ではトップの脳卒中大国であります。それにも関わらず、脳卒中の治療の評価と標準化に必要な Evidence based medicine (EBM)が欧米に比し大きく立ち遅れています。 EBMの基礎となる大規模Randomized Controlled Trial (RCT) は大半が欧米でなされたもので、 日本を含むアジアでのデータは殆どないに等しいのが現状です。日本は医療の先進国であるにも関わらず大規模臨床研究が なされてこなかったというのは由々しき問題であります。 文化が違うからEBMは日本の風土に馴染まないという考え方も確かにあります。 しかし、このグローバリゼーションの進んだ時代にいつまでも個人戦を尊ぶ鎌倉武士的な古い思想に とらわれていては 国際社会から取り残されてしまいます。EBMを確立するためには全国レベルの大規模かつ継続性のある 脳卒中急性期患者データベースを作成することが急務であり ます。すなわち、個人戦ではなく全日本規模の集団戦の体制を 整えることが必須です。
 本研究は急性期脳卒中を扱う中核病院のデータベースを兼ねた、パソコンによる情報精度の高い将来型データベースシステムを 開発し実用化する目的で1999年にスタートしました。 本研究はデータベースシステムを作成することだけが目的ではありません。 最終的にはこのシステムを全国の主要脳卒中専門施設に普及し、脳卒中急性期患者データバンクを構築、 維持していくことにあります。 従来にないシステム構築であり、研究班の皆様には多大なご負担を伴うご協力を頂きましたが、お陰様でシステムそのものは 比較的早期に完成し、 昨年度からは連続症例登録に入ることが出来ました。データベースの内容は必須項目と臨床研究用の オプションに分けたものの、かなり詳細な内容となり入力の負荷が大きすぎる との現場からのご批判も頂きました。 このようなご意見を可能な限り取り入れて、院内LAN構築も含めて研究班として改善に努めて参りました。 その結果、厚生科学研究の最終年度(2001年度)には予想を上回る延べ8000例以上の登録がなされ集計を行うことが出来、脳卒中データバンク2003として8000例の解析を まとめた本を出版することが出来ました。その後も参加施設が全国的に増加し、2005年には16000例をまとめた脳卒中データバンク2005を発刊することが出来、 ようやく脳卒中データバンクの意義が全国的に認識されるようになりました。さらに2009年には47782例という多数例の解析を東海大学医学部の大櫛陽一先生らの統計専門家 グループの協力を得て行い、脳卒中データバンク2009として出版することが出来ました。これはコンピュータによるデータベース構築研究としてはかってない大規模なもので、 世界中の脳卒中急性期患者データベースの 解析報告をもみても、症例数においてはトップクラスに位置しています。もちろんMRIの普及率の高さや、 診断能力の高さにより 内容的にも高水準にあります。当初はデータベースシステム構築が主眼でデータ集積まではとても無理と考えていましたが、研究班の皆様の多大なご尽力によりこのような 予想以上の成果をあげることが出来ました。 大変な努力をして頂きました研究班の皆様にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。 また、本データベースを若年者脳卒中研究班に 採用して頂いた峰松一夫主任研究者に感謝いたします。 また、本邦初のスタチンによる脳卒中再発予防の大規模臨床試験(J-STARS)の 予備試験(J-STARS-L)に本データベースとリンクした登録追跡ソフトを開発し取り入れて頂き、 興味ある成績を発表頂いた 広島大学脳神経内科の松本昌泰主任研究者に感謝します。
 医療経費効率化のためにDPCが基幹病院に導入され、また、医療を受ける側に対する情報公開が急速に進んでいます。 日本初の脳卒中治療ガイドラインも2004年に作成、公表され、2009年度に大幅な改訂が行われ出版されました。 ガイドラインは医師の裁量権を縛るものではなく、 最低限のレベルを維持するためのものです。 このような動きは医療の標準化につながります。すなわち、ある程度までの医療のシステム化です。 一般的に医師には職人気質が多く、ギルド社会を重んじます。しかし、情報公開のもとで自由競争を行う楽市楽座システムの方が 医療技術、サービス向上に結びつき、 結果として国民全体が受ける医療レベルの向上をもたらします。 それはお互いに同じ物差しで評価し合うことが必須です。 商業の世界で度量衡や貨幣価値の標準化が行われたように、 脳卒中医療においても背景因子や診断、重症度、予後などの標準化が必要です。 このような基準に絶対的に優れたものなどありません。 よりよいものを標準と決めてみんなで使うことが大事です。 これにより年令や重症度などの背景因子を加味した正確な比較が可能となり、 国際比較も意味のあるものになります。 この点で脳卒中データバンクは診断、重症度評価、予後評価の標準化に微力ながら貢献してきたと思います。 現在の日本の実力からみて、データ集積と解析を戦略的かつ効率的に行えば、脳卒中急性期治療および二次予防に関するglobal standardを 日本から提供することは十分可能です。 また、文化的に共通した基盤を持つアジア諸国と組めばアジア独自の情報発信も可能となります。
 行政面でも上記の急性期脳卒中の実態把握のみならず、DPCを含めた診療報酬に反映させることも可能となります。 このような研究は厚生科学研究事業としての研究だけで終わることなく、継続性が必要です。 その観点から社団法人日本脳卒中協会(山口武典会長)のデータバンク部門として、2002年度からデータバンク事業を 継続させて頂いております。 受託研究調査事業、データ解析事業などにより運営もようやく軌道に乗って参りました。 2011年4月現在、参加施設(科)は191施設を超えて順調に増加し、 登録例数も2011年4月時点で77000例を超えました。 2008年度から厚労省科学研究費に採択され、すでに電子カルテからの取込ソフトも3大メーカーで実用化し、 データベースソフトの使い勝手を改善するバージョンアップも行いました。
 また病院前救護における救急隊との連携ソフトを開発し、実際に出雲と倉敷消防署と数百例規模の共同研究を行い、このチエックリストを使うことと確定診断を フィードバックすることで搬送時間の有意な短縮と脳卒中病型診断率の有意な向上が確認されました。 すなわち、脳梗塞超急性期t-PA治療を推進する有力な武器になることが明らかになりましたので、この仕組みを保険診療加算に要望することとしました。
 リハビリテーション学会が作成したデータベースとの連携はすでに実用段階ですが、今回の研究費で開発した地域連携パスとの連携ソフトも地域連携パスなどのメッカである 熊本で実用化し、2000例以上のデータを集積し検証中です。日本独自のEBMを目指す本研究にますますのご支援を 賜りたくお願い申し上げます。
【データバンク事務局】
 島根大学医学部附属病院
 病院長 小林祥泰
 〒693-8501 島根県出雲市塩冶町89-1
 E-mail: skdr3nai@med.shimane-u.ac.jp
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